今回はビンテージ機材の見極め、ネオビンテージについてお話しします。

みなさん、ビンテージ機材というとどんな物を思い浮かべますか?

Neumann U47チューブマイクロフォン、Telefunken V72、NEVE 1073、UREI 1176…これらは古いものではもう60年以上前の物から40年前くらいの物ですね。

今まではその時代の物を主にビンテージ機材(もちろんもっと古いものもありますが)だと認識してきたのですが、今、時は2015年です。1980年代の機材も、もはや立派なビンテージ機材になってしまったのです。

1980年代は工業機械的にも音楽産業的にも方向の定まらないバブリーな時代で、CDビジネスで大量メディアの大量販売という時代の幕開けでした。アナログは古く、デジタルが最先端という認識であっというまに過去の機材は淘汰されていきます。もちろん良識者は物事の真髄を分かっていましたが、世界の動きは流行に右にならえだったのです。

初期のデジタル技術は問題も多く、アナログの技術者はまだその特性を理解しきれていなかったために、満足な修理状況もありませんでした。また、多くの機材がICチップによって構成されるようになり、その固有の部品が入手出来なければ修理不可能であるという状況が生まれました。この事が後々悲劇を産むのです。

アナログであればその専用部品が無くとも、回路的に同じ役割をする装置なり、部品なりを見つけるなり作るなりすればなんとか修理は出来ます。しかし、デジタルではそうは行きません。

初期の8BITのコンバーター類などはもはやこの世には存在せず、また今のように手軽にインターネットで部品を購入できるような時代ではなかったため、そもそもの流通量が少ないので、現在では探し出す事はまず出来ないといって良いでしょう。また、スイッチング類のC-MOS-ICなども現在の規格ではないものが多いため、もはやどうにもなりません。一部有名な機材のICなどはそれこそ工業的には雀の涙程ですが、マニアの努力によって少数ロットで限定再生産したものも出て来ていますが、それとて高価で少ないわけです。

そんな事情から、初期デジタル物はネオビンテージ機材の中でも私は『火中の栗』と呼んでいます(笑)。どんなに良いなと思う機材があってもなかなか買う勇気は出てきません。

そしてその初期デジタルに続いて危険なのが初期ICハイブリッド型の機材です。やはりこれらも専用部品が多いために、いくらアナログであっても元の通りの形に直すのは相当な苦労を伴います。30年以上を経過した機材はまずコンデンサー類は寿命を終えています。また基盤のレジストの処理の化学薬品が現在ほど良いものではないために腐食が起きています。こうなるとハンダを流すだけで銅箔が延焼してめくれてしまうのです。特にスルーホールの両面基盤型の機材ではそのパターン線が今と違って極限まで細いのであっというまに断線します。イマイチ音抜けの悪い機材は、たいていこういうPCB基盤のレイアウト設計の不良によるものが多いのです。現在ではその太さやベタアースなどの重要性が理解されているので、滅多にヤワな基盤というものにお目にかかれませんが、当時は10年後の修理の状況など考えずに設計したのです。

特に固有の機材名は挙げませんが、固有の部品名で気をつけなければならないものを挙げてみたいと思います。

ビンテージ機材での問題は色々ありますが、まずこれでしょう。『ポットのガリ』。
このガリ、回して消えるうちは良いのですが、そのうち音が途切れるようになり、酷い場合は歪んで最終的には音が出なくなってしまう事があります。多くの場合は焼き固めた炭素皮膜の上にグリスを塗った金属製のベロが触れるような設計になっており、ゴミが入ったり炭素皮膜がすり切れたりしてガリが出たり断線したりするのです。ゴミならば専用のクリーナーで或る程度復活させる事が可能です。カーボンおよび導電プラスチック専用クリーナーという物が売っていますからそれを使えば良いのです。

しかしある種のボリューム、それも多くのハエンド機材で各メーカーがこぞって採用した四角い約1cm四方の『〇〇』社の物はそのクリーニングが効かない(一瞬効きますが、すぐにダメになる)上に断線するのでその後多くの機材メーカーが採用を止めるのです。この過渡期までは非常に良く使われました。NEVE社も例外ではありません。

この『〇〇』社のポットは薬剤を入れても僅かしか機能が復活しないので、基本的には交換するしかないのですが、当時メーカーは専用パーツとして発注したので一般に売っていない値の物が多いです。現在はこの代替えになるパーツがありますが、値に関してはロットで発注するしか方法がなく最低100個とか買わなければならないのです。納期も半年などザラです。

つまりこういう事です。たとえ大きな故障が無くとも、『〇〇』社のポットが入っているネオビンテージ機材はかなり注意して購入を考えなければならないという事です。簡単に交換がきけばラッキーです。もちろん『〇〇』社製も新品なら問題ありません。10万回転までは当時保証していた様ですからそれなりの耐久性はあったのですが、問題はその耐久性を過ぎた瞬間にダメになってしまうという事なのです。

もしどうしても欲しい機材があって、それがガリがあって、運良く内部を見れるチャンスが有った場合はポットが『〇〇』社製どうか確認すると良いでしょう。逆に自分がそういう機材をオークションで売ったりした場合、後々クレームが入らないとも限りません。現状渡しであるという事をしっかり了承してもらうべきでしょう。では買う場合は?もし交換可能な代替え品のあるVISHAYの場合はその工賃/部品代を差し引いて値段交渉すると良いと思います。また、そういう事が困難そうな場合は、相応の値引きを交渉するのも良いかもしれません。

1980年後半の機材でこれらの危険パーツを多用している機材の場合、たとえ当時の販売価格が高いものだったとしても、或る程度リスクを差し引いて価値を考える必要があるのです。
言い換えればこの時期の機材は物によっては当時高価なものでも価値があまりないものがあるという事です。この見極めは電子回路の製作や実際の修理を経験した人間でないとちょっと難しいかもしれませんね。そういう場合は専門家のいるショップなどに(例:宮地楽器神田店)相談するのが良いでしょう。

次回はビンテージ機材のレプリカについてです。乞うご期待!

 

~近日公開予定のVol.4に続く~

以前のシリーズはこちらから

> Vol.1 マイクプリアンプ編のコラムはこちら
> Vol.2 ダイナミックマイクロフォン編のコラムはこちら
> Vol.3 ビンテージ機材の見極め編のコラムはこちら

著者紹介

佐藤俊雄(さとう としお)

1991年TONEFLAKE 設立。
真空管機材をメインにビンテージ機材のメンテ、改造、リボンマイクの修理などをはじめる一方、独自のブランドの機材も製作する。ヨーロッパ在住の経歴を生かし米国以外のメーカーとも連携を深める。
現在宮地楽器MID所属の傍ら、独自の研究と商品開発も続ける異色の存在。

1920年代からの録音機材の収集や1950~60年代のアナログレコーディング技術に詳しい。
メジャーレコード会社にての作家(アーティスト)およびエンジニアの活動経験もある。

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