RPMスタッフが100万円超のスピーカーを自腹で買った話 ~KS Digital / C100 Reference レビュー~

みなさんこんにちは。スタッフのKFです。
フックの強そうなタイトルを使用したことに罪悪感なども感じておりますが、ほんとうに買ってしまいました。
KS Digital / C100 Reference。ペア128万円。10インチのウーファーを大口径ユニットを搭載しつつも比較的コンパクトな筐体に収めた同軸モニタースピーカーです。


私は今回自分の好みからシックなブラックを選択しました
今回はこちらのスピーカーについて、導入経緯なども交えてご紹介していきたいと思います。少し長めになりますがお付き合いください。
※軽く自己紹介をば。
私はフリーの作編曲家として活動する傍らRPMのスタッフとしても勤務しています。
制作からミックス、マスタリングまで全て自宅の制作部屋にて行っています。
導入以前の環境と更新検討の経緯
-Amphion / One18による5年間の制作-
私は今までAmphion One18を使って制作をしていました。今やすっかり定番の人気モデルですね。サウンドはフラットで正確、それでありながら聴き疲れしないナチュラルなサウンド。リスニングポイントが特別狭いということもなく扱いやすいニアフィールドスピーカーです。
つい先日One18Xという後継機種が発売されましたが、まだまだ現役で使える素晴らしいサウンドだと思います。ミニマルで洗練された外観も大好きです。
ではなぜ今回入れ替えを検討したのか。それにはOne18の再生可能な周波数帯域が関わっています。
– とあるきっかけで見えた低域チェックへの課題感
一昨年のある日、One18でマスタリングまで完了し、リリースもしている自分の楽曲をより大きなスピーカーで再生する機会がありました。その際に
- ベースシンセが音程によって音量が飛び出したり引っ込んだりしている
- キックの量感やぼわつき方が楽曲ごとにばらつきがある
これらの問題が発生していることに気づいたのです。Amphionのスピーカーの再生域は45 – 20,000Hz +/-3dB、問題が起こっている帯域はそれより低い帯域でした。ヘッドホンチェックなども併せて行っていましたが、気がつくことができませんでした。
要するに、少なくとも私の制作環境においては低域判断に限界があったのです。
昨今の音楽制作において、30Hz台のサウンドを作り込むということは珍しくありません。ときによっては大きな会場で鳴らした20Hz台の体を揺らすサウンドのパワーもコントロールされることがあります。
フリーランスの身ゆえ、気軽に利用できるマスタリングスタジオなどもありません。「自宅で現代制作に必要な低域が見えるスピーカー環境を目指そう」、これが、今回のスピーカーシステム探訪の発端です。
※この45Hz~という数字、実はメリットも大きいです。後述しますが低域へレンジを伸ばすほど、部屋との相性が極端に出て、コントロールが難しくなります。
C100の導入においては今回音響補正システムのSound ID Referenceを導入しましたが、One18の頃は、最低限のルームチューニングだけで特に問題を感じない鳴り方をしていました。
– サブウーファーを導入してみた
やはり手っ取り早いのはウーファーの追加だろうということで、NEUMANN KH750を導入しました。18Hz~というカタログ上非常に深い帯域幅を持ちながらクローズド筐体による締まりのあるサウンド、見えやすい低域とよく言われる人気機種です。
知り合いのエンジニアの方から「One18と併せて使っているエンジニアがいる」と伺ったことや、ネット上でも数件、この組み合わせでうまくいっている、という投稿を目にしたこともあり、試しに導入してみることにしました。
– 専用測定マイクで補正
併せて専用測定マイクMA-1を購入し、One18とKH750で初めてのDSP音響補正に挑戦。NEUMANNのDSP補正は位相も合わせてくれる優れものですが、今まで特別不満のなかったOne18のサウンドさえ、帯域整理によりスッキリとしたサウンドになり、より像がくっきりと浮かぶようになりました。
KH750のサウンドもボワついた低域という感じでは全くなく、前評判通りの締まりのある見えやすいサウンド。
この環境で1年ほど運用しましたが、以前ほど外の環境で試聴した際「特別飛び出した低域」を感じることがなくなり、概ね問題は解消したと言える状態になりました。
– ただ、しばらく使ううちにいくつかの気になる点が…
求めていた機能を満たしてくれたかに見えた2.1ch環境、しかししばらく使用するうちに私の狭い制作部屋ではいくつか気になる点が出てきました。
■20-30Hz帯が部屋を揺らしてしまう
さすがにこの帯域までをうまく鳴らす音響処理はできておらず、音量を上げると部屋の揺れを感じてしまい、音楽以外の情報、制作上のノイズとして感じられるようになってきました。
■「机の下から音が鳴っているな」という認知
さきほどの指摘と重複する部分もありますが、床に足をつけていると、低域の揺れを足が感じてしまうこともあり「今まで聞いていたステレオスピーカーとは別の位置から音が鳴っている」、と脳が認知することが、楽曲そのものへの集中を若干阻害するな、と感じるようになりました。
■デスク下スペースを圧迫する
デスクトップPC、ラックケース、引き出し、と既にものの多かったデスク下スペースですが、KH750が鎮座することによって完全に埋まってしまいました。少しでも足をデスク奥に伸ばそうとすると何かものにぶつかってしまうという環境が、小さなストレスを積み上げました。
「必要十分な低域を単体で見通せる、そんなわがままに応えるモニタースピーカーが欲しい!」
そこで行き着いたのが、冒頭でも触れたKS Digital / C100 Referenceです。
KS Digital / C100 Reference導入記
– スペックをざっくりと
- 構造:2WAY同軸
- 周波数帯域:35Hz-22000Hz
- 寸法:285 x 350 x 350 mm
- 重量:15kg
– なぜC100 Referenceなのか
■近距離視聴に耐えやすい同軸構造
最大の特徴はやはり「同軸」ということに尽きるでしょう。
これだけの帯域を鳴らすスピーカーとなると、2WAYを超えて3WAYになることが珍しくありません。3WAYスピーカーというのはユニット間の物理配置の影響もあって、近距離では帯域ごとの像がまとまりにくい傾向があります。小型のものでも推奨視聴距離が1.5m-2.0m以上といったものが多いです。
その点、同軸スピーカーはウーファーとツイーターが同一軸上にユニットを配置する構造上、一般的な多ウェイ機よりも到達タイミングのズレが小さく、近距離でも像がまとまりやすいのです。
■35Hz~という「ちょうどいい」帯域幅
One18では不足を感じ、KH750では自室では扱いきれなくなってしまった低域ですが、C100 Referenceの35Hz~という帯域幅はちょうど良い落としどころに感じられました。30Hz台の情報を把握しやすくなりつつ、過剰に超低域へ意識を引っ張られにくい。私の環境では“音楽として低域を捉えやすい”レンジだと感じました。
■一人でも、デスク上でも扱いやすい軽さ
また、軽量さも特筆すべきポイントです。私の部屋ではデスク奥にスタンドを立てるようなスペースの余裕がないため、デスク上運用が前提です。そうなると天板の耐荷重が気になるのですが、大口径のウーファーを備えた3ウェイスピーカーは片方20キロ超え、下手をすると30キロに到達するようなものもあります。10インチのウーファーを備えながら15キロという重量を実現しているC100 Referenceはかなり珍しく、設置上の取り回しやすさも個人スタジオで重宝します。
– サウンドの印象
端的に言えば”とても正確でありながら気持ち良い音”がします。
詳細は割愛しますが同軸スピーカーは構造上、大型化するに伴い特有の音響的課題を抱えています。そうした課題に対して独自DSP技術であるFIRTECが働いており、リアルタイムに周波数・位相の整合性を高めています。元の位相ずれしにくい物理特性もあってか、サウンドはDSPくささを感じさせず、極めてナチュラルで、立ち上がりも速く感じられました。さらに特筆すべきは音像の立体感です。初めてRPM店頭で試聴した際「スピーカーが消える感覚とはこういうことか」と思ったほどでした。
そして何より仕様や設置条件の前に、まず一聴して「これは今の環境のアップグレードだ」と思えた数少ないスピーカーであったことが導入の決め手になりました。
– しかし一筋縄ではいかないこのサイズ
公式にも壁際設置、小部屋での運用など難しい条件下への導入を推奨している本モデル。
とはいえポン置きで完璧に鳴らせるほど都合のいいものではありません。
部屋のモード問題
30Hz台まで鳴らすスピーカーは部屋との相性が露骨に出ます。特定帯域のふくらみやへこみが起こる関係で、やはり特に低域周りがややごちゃついて聞こえてしまっていました。
デスク直置き環境での天板由来の音響的悪影響
スピーカーインシュレーターは噛ませていたのですが、やはり天板面との距離が近く、デスク近傍の反射や境界の影響は無視できませんでした。その結果、リスニングポイントから頭を前後に動かす(=デスクに近づく)と、特に低域の聞こえ方、量感がやや変化する、といった問題を抱えていました。
– 対策してみた
既に室内の一次反射面には吸音材を貼るなど、最低限の音響対策を行っていましたが、C100導入にあたって以下の追加対策を行いました。
Sonarworks / Sound ID Reference
専用の測定マイクとセットになった音響補正システムです。リスニングポイント付近で測定することで音響特性をフラットに近づけてくれます。
導入前は本体内蔵FIRTECとの併用を少し気にしていましたが、実際には大きな違和感は感じられませんでした。
この製品の素晴らしいところは作ったプロファイルを適用する帯域の範囲を選択できたり、Mixノブが存在することです。確かにリスニングポイントにおける低域のごちゃつきは収まったのですが、mix100%では少しすっきりしすぎた印象を受けたので、70%程度のバランスで運用することにしました。
C100 Referenceは補正後も音が窮屈になりにくく、スピーカー側の余裕を感じられたのも好印象でした。
※別売りの専用コントローラーを使い内蔵EQで補正するやり方もありますが、より手軽で直感的なSound IDを今回は採用しました。
導入したかったが見送った専用スタンド
C100はこのサイズで壁際、デスク状という厳しい環境での使用を公式に想定しており、メーカーから専用の卓上スタンドが販売しています。コの字型で左右のネジ穴で固定するタイプのもので、天板との距離を稼ぎ、また傾斜をつけることができるため、スピーカー下面と天板の音響的悪影響を軽減することが期待されます。
ぜひ導入したいパーツだったのですが、お値段なんと15万円。。!!(本稿執筆時点)
Sound ID Referenceでもリスニングポイントでの十分な視聴環境の向上は見られたため、また次の予算が貯まるまで見送ることにしました。。苦笑
代わりと言ってはなんですが、手持ちのスピーカーインシュレーターのMoof / POWERCELL を挟み、振動が天板になるべく伝わらないようにアイソレートしました。
C100導入後のデスクがこちら!
壁との距離も近く、リスニングポイントもかなり近い難しい環境ですがスピーカー本体のポテンシャルとSonarWorksの力で綺麗に鳴らすことができました!
さて、色々と経緯交えて語って参りましたが、改めてこのスピーカーの要点を整理します。
C100 Referenceのおすすめポイント
- 10インチウーファー搭載でパワフルで広い帯域をカバーするモニタースピーカーでありながら、ナチュラルで正確なサウンド
- 同軸構造により、近距離でも音像がまとまりやすい
- サイズのわりに軽量で、デスク上運用も視野に入れやすい
導入前に気にしたいポイント
- 条件の厳しい部屋でも候補にしやすい一方、置いただけで完璧に鳴るわけではない。
- 価格帯は高く、導入には相応の予算が必要
代替案 - 購入検討する際に比較したいスピーカー –
Genelec / 8341、8351
同じく同軸型モニタースピーカーということもあり、今回と同条件の環境への導入であれば真っ先に比較に上がるだろうモデルだと思います。内製のDSPを備え、多チャンネルへ対応がしやすいことなど拡張性と汎用性の高い製品で、当店でも人気のブランドです。
今回はステレオ環境において、ダイナミクスの出方がより自分の好みに合っていたこともあり、C100 Referenceを選択しましたが、検討に値するモデルだと思います。
NEUMANN / KH310
34Hzから21000Hzと、C100 Referenceとかなり近い帯域幅をもち、クローズド筐体でタイトで解像感の高いサウンド、また比較的リーズナブルな価格設定で多くのスタジオで導入実績のある人気モデルです。個人的にはC100は、KH310のサウンドを点音源化したような、そんな印象を持っています。1台で制作に必要な帯域を鳴らしつつ、コストを抑えたい方におすすめです。
RPMで視聴しよう!!
RPMのスピーカールームでは、音響調整の為された部屋で、先にあげたハイエンドスピーカーたちを比較・試聴することができます。
ご予約や事前に相談いただくことで、更に他のモデルとの比較検討もしていただけます。
是非ご利用ください!
終わりに
長い私事を含んだ文章をここまでお読みいただき、ありがとうございます。
実際のところ冒頭の経緯には私のエンジニア領域の経験不足もあったと思います。
ヘッドホンでのチェックは、部屋の影響を受けにくい低域確認の一般的な手法の一つです。メーターやリファレンスを併用しながら低域を管理するアプローチ自体は十分現実的ですし、スピーカー側では低域の“量”を細かく追い込みすぎず、全体のバランスや存在感の確認に役割を絞る、という考え方も環境に依存しすぎない一つの解答でしょう。
ただ、その上で今回私が重視したのは「音楽制作に集中させてくれる道具を選ぶ」ということです。
One18で大枠を作り、ヘッドホンとメーターでチェックをする。実現できることのポテンシャル自体はC100と変わらないのかもしれません。
ただ、私は30Hz台のサウンドを大きな音が出せるスピーカーで聞きながら、もっというと、大きな箱で鳴る感覚になるべく近い状態で制作したいと考えました。ヘッドホンとの往復によって想像で補う1ステップが短縮されることは、「音楽を作る」ということ以外に脳の使用メモリを一つ減らすことにつながります。
そして何より、C100 Referenceは、「自分の音楽を聞いていて楽しい」「作っていて楽しい」という原点的な体験を、私の音響的に厳しい部屋でも1段上のものにしてくれました。少なくとも私にとっては、金額に見合う投資だったと思っています。
このレビューを通しまして、このスピーカーの魅力が少しでも伝わり、試聴してみたいと思ってくださる方がいれば嬉しいです。
最後に、このスピーカーを快くデモ貸ししていただいた代理店様に感謝を。
ではまた別なレビューでお会いしましょう。
製品・販売価格一覧
●KSdigital / C100 Reference

お問い合わせ先
