電気について、理解しよう

前回は『我々が聞いているものの正体』を追求しましたが、今回はその元になる電源の更にもとの電気に迫ってみようと思います。これを理解する事により、更に音とは何かを追求できるようになります。

交流(AC)と直流(DC)について

まず、電気には大きく2種類ある(本当はもっとだけども、ここでは大きい基本として)のはご存知でしょう。
そうです、交流(AC)と直流(DC)です。そんな名前のバンドもありましたね(苦笑)。

電気が最初に人類にとって自由に扱える状態で手に入った時、おそらくそれは蓄電瓶か電池経由であったと思われます。これは流れ出る時には直流と いって電子そのものが導電体の中を走る事によりエネルギーを伝達させる種類の電気です。たとえば100mの銅線があったなら、電子はその100mの端から 端までを流れるわけです。これはどういう事かと言うと、銅線そのものが電子の道筋なので、その銅線自体の品質や伝導率などがエネルギーの伝達に直接影響し ます。

それでは交流はどうでしょうか?
交 流ももちろん電子が動くには動くのですが、直流の場合と少し事情が違います。交流とは、電子が電線の端から端までを行き来するのではなく、2本の銅線を対 としてそれぞれがプラスとマイナスを交互に入れ替えつつ揺れる流れなのです。その揺れの幅というかエネルギーが交流の電気エネルギーであると言えます。

交流(AC)と直流(DC)をわかりやすく説明する

直流と交流とで、似てるようでかなり仕組みの違うものである事がわかりますね。
もうすこし分かりやすく言うと、直流は離れた二人の人が綱を一人からもう一人の方向に送り続けるような状態に似ています。送る方はせっせと綱をたぐって送り出し、受け取る方はせっせと受け取るわけです。交流は2本の綱を予め向かい合った二人が両手に持っていて、送り手側が右を引くと受け手では左が引っ張られます。 そうしたら今度は送り手が右手を相手側に戻しつつ左手を引きます。そうすると受け手では右手を引っ張られるわけです。これを繰り返すとどうなるでしょう? 右、左、右、左と交互に腕が動くので身体が右、左と回転するようになりますね?厳密には違うのですが、イメージの問題として分かり易くするために説明しま すとこの身体のねじれ(つまり回転)が伝達されるエネルギーなのです。
直流は送った縄の量がエネルギーの量ですが、交流はこの身体のねじれがエネルギーそのものになります。

という事は、電子が必ずしも電線の端から端までを流れる必要はありません。
しかも、もっと言うと途中に絶縁物質があっても見かけ上の綱引きが成立さえすれば身体のねじれは起こりますから電気が『流れる』のです。
絶縁体があっても電気が流れる??そんな事があったら大変!そこらじゅうで漏電してしまいます!…ご安心を、これはかなりミクロの世界での話なのです。

でも直流では絶対に流れない絶縁体を交流は本当に流れるのでしょうか?はい、流れます、というか見かけ上流れたような事が起きます。これはコンデンサーという部品で起こる非常に良く知られた現象です。コンデンサーとは2つの線の間に絶縁体を挟んで作られた電子部品です。つまり直流はコンデンサーを通過する事は出来ません。ですが交流はここをすり抜けてしまいます。

身近な交流とは……?

みなさん、身近な交流って何でしょう?…そう!音なのです。
日本の家庭での商用電気の周波数は西60Hz東50Hzですね?つまりこれは、60Hzないし50Hzの音を流しているのとなんら変わりないのです。電子回 路の中で音は全て交流なのです。つまり音はコンデンサーを通過する事が出来るのです。交流電源とは巨大な音波である事がご理解頂けたと思います。直流のよ うに直接電子が行き来するわけではないので直接抵抗でのロスは無いかわりに今度はその揺れに対するエネルギーロスが存在します。それがインピーダンスです。交流抵抗値とも言います。良くインピーダンスが低いとか、ハイインピーダンスだからノイズを拾い易いとか言いますね?それはつまりエネルギー伝達効率に関わっている話だったのです

現在、商用電気はほぼ全てが交流電源です。そして交流はコンデンサーを通過します。交流を絶縁するには導電体を完全に遮断するしかありません。完全に遮断した導電体どうしでエネルギーを伝えるにはどうすれば良いのでしょう?もちろんここではコンデンサーは役に立たないレベルでの、という前提です。そこで出番が磁力なのです。交 流電力を一度磁力に変換し、それをさらに受けてから再度電気に変換するのです。これをやってのけているのがコイル(トランス)なのです。交流は電流の揺れ ですから、その揺れがコイルを揺さぶれば受け手のコイルも揺さぶられその分のエネルギーが伝わってファラデーの法則により電気に変換されるわけです。磁力 は導体を伝わるわけではありません。空中でも伝わってしまいます。

ノイズを除去するということは…??

なんとなく勘のするどい人は、今回私が何を言いたいのか察しが付いたかもしれませんね(苦笑)。
つまり、交流電源装置から電源を受けて音を直接いじる機械というのはこれらの全ての要素満載なので、ノイズを除去するという事がものすごい難しいテクニックであるという事なのです。磁 力ノイズはトランスから混入しますし、交流ノイズはグランド間に接地されたコンデンサーから漏れて入ってくるし、電気の揺れがそばにあればそれはたちまち 電磁誘導エネルギーとして漏れて入ってきてしまうのです。直流だけなら防ぐのはそんなに難しい事ではありませんが、これが交流となるともう大変。しかもほ とんどの電子機器が最終的に末端では直流で動作しているために、常に交流と直流の2種類の電気のノイズと戦わねばならないのです。直流をエネルギー源とし ながら交流である音を増幅する、これはもう相当カオスな状態である事がお分かり頂けると思います。その音の増幅素子として人類最初の発明は真空管でした。 これはまだ完全に説明された事ではありませんが、真空管とはその各電気接点がそれぞれ真空中で独立しており、お互いが触っていません。つまり空間によって 遮断されているのです。これに対してトランジスターは半導体として接着した状態です。似た様な動作をする素子ですが、この仕組みの違いはとてつもないもの です。

私が考えるに、真空管とトランジスターは、その表面上の性能の優劣で語るべきではなく、あくまでその仕組みと結果の違いで語るべきと思っています。
つまり真空管でしか出せない音があり、それはいかなる時代となっても『古いもの』ではないという事です。

少し脱線しましたが、この続きは四方山話 Vol.6で。次回はこの話を結構掘り下げたいと思います。

以前のシリーズはこちらから

> Vol.1 マイクプリアンプ編のコラムはこちら
> Vol.2 ダイナミックマイクロフォン編のコラムはこちら
> Vol.3 ビンテージ機材の見極め編のコラムはこちら
> Vol.4 我々は一体何を聞いているのか?

著者紹介

佐藤俊雄(さとう としお)

1991年TONEFLAKE 設立。
真空管機材をメインにビンテージ機材のメンテ、改造、リボンマイクの修理などをはじめる一方、独自のブランドの機材も製作する。ヨーロッパ在住の経歴を生かし米国以外のメーカーとも連携を深める。
現在宮地楽器MID所属の傍ら、独自の研究と商品開発も続ける異色の存在。

1920年代からの録音機材の収集や1950~60年代のアナログレコーディング技術に詳しい。
メジャーレコード会社にての作家(アーティスト)およびエンジニアの活動経験もある。

share

CONTACT

お問合せ/ご来店予約/
買取申込/みくスタ予約