Review
話題の製品を実際に試してみたらこうだった!「レコーディングブースの配線一発解決!・Cranborne Audio/N22H」
Cranborne Audioとは
Cranborne Audio(クランボーン・オーディオ)は、”ヴィンテージサウンドへのモダンなアプローチ”をキャッチフレーズにプロフェッショナルオーディオ機器を設計するイギリス・ロンドンの新興メーカーです。
代表的な製品としてオーディオインターフェース機能を搭載した500シリーズ電源モジュール「500R8」、ADATエキスパンダー「500ADAT」があります。
単体のインターフェースとしてもかなり高いレベルにあるADDAを搭載し、モニターセクションやヘッドホンアンプなどスタジオに必要な機能を1台で備えており、どのセクションも妥協のない本気設計です!
その他同社のcamden500をはじめとするマイクプリアンプは非常にクリーンでリニアなゲインアップが得られるため、エンジニアの方からの評判が良いですね。
そんなCranborne Audioの中であまり知られていないけど「試してみたらとても優秀だった!」、ということで「N22」と「N22H」の具体的な活用方法をご紹介します!
C.A.S.T.とは
「一言で言えば、4つのバランスドXLRケーブルを最大100mの距離まで1つのシールド加工されたCat5、Cat6、Cat7ケーブルで置き換えることができるものです。C.A.S.T.はシールド加工されたCat5、Cat6、Cat7ケーブルの内部銅線を転用しアナログオーディオを転送することができるシステムです。」
Cranborne Audio製品のほとんどがこのC.A.S.T.を用いています。
同社製品同士で使用する際にはとても便利ですが、Cranborne Audio製品のユーザー以外の方にとってはあまり関係のないものでした。
そして同社製品ユーザー以外の全てのDTM・レコーディングに携わる人にとって、C.A.S.T.への門戸を開くのが今回ご紹介する「N22」「N22H」なのです。
1つ目の重要ポイントはアナログ転送というところです。
LANケーブルを使用するということでデジタルのネットワークオーディオと思われがちなのですが、2in2outのXLRケーブル4本がまとまったいわゆるマルチケーブルのようなイメージです。
アナログ転送なのでサンプリングレートは関係ない上にレイテンシーももちろん発生しません!
2つ目の重要ポイントはこの「N22」「N22H」はCranborne Audioのユーザーのためだけではなく、市販のどのインターフェースやマイク、マイクプリ等と組み合わせても、実力を発揮するということです。
そしてこのN22Hが只者ではありませんでした。「N22にヘッドホンアンプがついただけ」ではないのです。
この「N22」「N22H」の組み合わせで、「簡易的かつ安価で高音質なキューシステム+α」を構築する方法をご紹介します!
「N22H」「N22」活用方法
Case1 単体のヘッドホンアンプとして
この使い方はただの単体ヘッドホンアンプとして使用する方法です。
オーディオインターフェースのステレオアウトプットをヘッドホンアウトとして活用できます。
高音質なままヘッドホンアウトの数を増設可能です!
この場合はLANケーブルすら使わなくて良いのです。
XLRとTRS両方受けられるヘッドホンアンプは実は市場にかなり少ないため、
比較的安価で高品質なヘッドホンアンプとして活用できます!
地味に嬉しい機能だと思ったのがマイクスタンドに設置可能なところです!(底面に3/8インチネジ穴搭載)
机に置かなくても良いのでユーザーさんの好きな位置に設置できます!
Case2 ブース内ヘッドホンアンプ兼マイク出力送信機として
この使い方がCASTの真骨頂です!
レコーディング時に、録音ブース等を使用する場合の配線を想定します。
エンジニア側(コントロールルーム):オーディオインターフェースの近くにN22を設置し、2in2outのケーブルを接続します。
ブース側:マイクをN22Hのインプットに接続、ヘッドホンをN22Hのヘッドホンアウトに接続する
両者間:LANケーブル1本のみの接続
N22H側にアダプター接続にて電源の供給は必要なのですが、ブースとコントロールーム間はLANケーブル1本です。
アナログケーブル4本で接続する場合、配線がかさばります。狭いブースの中も1本通すだけで良いのです。またLANケーブルは壁や天井などにも配線することが容易です!理論上100mまでの長距離の配線も可能です。
さらに価格的にもXLRのマイクケーブル1本にも満たない金額でCAT7のケーブルも入手可能です!
実際に試してみた
ここまではあくまで理論上の話です。気になる音質や、使い勝手を実際に試して実験して見ましたので、レビューします。
実験1:N22Hを単体ヘッドホンアンプとして使ってみる
まずはRME/UFX2を使用しモニターアウトの出力をN22Hに接続し、UFX2本体のヘッドホン端子と比較試聴しました。
結果:
あくまで筆者個人の感想ですが、本体のHPアウトと遜色ないどころか、解像度は上回っているように聴こえました。特にミドルからハイにかけての空間表現や解像度は高く、内蔵のHP出力が心許ないインターフェースなどは特に効果があると思いました。音質は堅実でクリアなまさしくスタジオクオリティです。特にピークも感じられず、非常にモニタリングしやすい印象でした。
あとから気づいたのですが、XLRでバランス入力をインターフェースのユニティで出力していたので、機種によっては音が入力の段階で割れてしまうという懸念があったのですが、まったくその心配はありませんでした!
製品仕様を確認すると、Max Input Level+28dBuと記載がありましたので、業務機器のDAコンバーターの出力も全く問題なしと言えます。
さらにアンプ音量自体もかなり余裕があり、出力を大きくしてもノイズのレベルは非常に低いレベルにありました。最初はサーっという音が聞こえたのですが、セッションにインサートされたプラグインのノイズの音でした。つまりはそのプラグインのノイズの有無がはっきりわかるくらいに本体自体のノイズフロアが低いものになっているという証拠ですね。
実験2:N22、N22Hと組み合わせ、音を聴きながら録音してみる
写真のように実際に10メートルのCAT7ケーブルでN22とN22Hを接続してみました。上でご紹介したCase2の実験です。
結果:
音質は全く問題なしです。ヘッドホンからの出力も劣化が少ないように思いました。どうしてもアナログで引き回すため多少の劣化は避けられないですが、同じ長さのマイクケーブルを引き回した時の劣化具合と同等レベルだと思います。
肝心のマイクからの録り音も同様です。インターフェース直挿しと全く同じとはいかないですが、ノイズの混入などはなく、クリアな音質で録れていました。実際レコーディングスタジオで壁のコネクターにマイクを挿し、コントロールルームまで引き回す状況と変わらないため、実使用上全く問題ないですね。
もちろんファンタム電源も問題なく送れますので、コンデンサーマイクで使用しても問題ありません。
実験3:N22H x2を組み合わせ、デイジーチェーンしてみる
実はN22Hデイジーチェーン(数珠繋ぎ)が可能です。
複数人で同じミックスをモニタリングしたい時、LANケーブル1本で増設可能です。
最大3台までのデイジーチェーンが可能です。
某メーカーのキューボックスのようなイメージです。
アナログ伝送で分配するため、理論上無限にデイジーチェーンができますが、その分インピーダンスの変化や劣化を伴うことになります。
結果:
実験では2台をデイジーチェーンさせてみましたが、やはり2台目は比較すると1台目よりは劣化しました。しかしながらこの程度の変化であれば実使用上の音質は保たれていると感じました。あくまで比較するとのお話ですので、個人的には2台目でもシビアなモニタリングに耐えうるラインは超えてくる音に感じました。
実験4:N22、N22H x2を組み合わせ、デイジーチェーンしてみる
実験2の発展版としてコントロールルーム側に2台のN22Hを設置するパターンを想定してみました。
まずI/Oの近くにN22を設置し、キュー送りのアウトと、トークバック用のマイクプリへのインプットを接続します。
エンジニアの後方にディレクター用のN22H、そこからデイジーチェーンでプロデューサー用のN22Hを合計2台設置します。ディレクター用のトークバックマイクをInput1に、プロデューサー用のトークバックマイクをInput2に接続します。
この状況を想定して実際に接続テストをしてみましたが、ちゃんとInput2のマイクもきちんと使えます。
音質についてはInput2のマイクが多少大人しくなってしまうため録音に使う場合は、多少の劣化を感じます。
ノイズが乗るというよりはアナログケーブルを長く引き回した時に少し音が遠くなるという風に感じました。
そのためデイジーチェーンで長距離を引き回す場合はトークバックに用いるのが最適解だと思います。
キューミックスを3台に分配できますので、ブースに複数人いる場合のレコーディングスタジオやラジオ収録に最適ですね。
実験5:N22、N22Hの接続のLANケーブルを変えてみる
好奇心でLANケーブルを変えて音質に変化があるか実験しました。
某A社の高級LANケーブルと電気屋さんで買えるCAT7のケーブルの対決です。
結果:
結構変わったように聞こえました。すでにDANTEやAVB接続で定評のあるケーブルですがアナログケーブルとして使用する場合にも違いが出ました。具体的には長距離引き回した際に音の太さや解像度が劣化しづらいように聞こえました。ある程度高級なLANケーブルでもマイクケーブル4本と同等の価格ですので、あわせて導入するのもオススメです!とはいえ安価なLANでも十分な音質は保たれますので、これは音質にこだわりたい方向けですね。
ハイクオリティなヘッドホンアンプをできるだけ音質を保ったまま分配したいという用途にオススメです!
まとめ
いかがだったでしょうか。今回はCranborne Audioの「N22」と「N22H」をご紹介しました。
コンパクトな環境でのキューシステムの決定版になりうるポテンシャルを秘めた製品でした!
実際に試聴をご希望の方は下記ご来店フォームよりお問い合わせください!