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話題の製品を実際に使ってみたらこうだった!『UVI/Toy Suite』
話題の製品を試してみた! 「UVI/Toy Suite」!
宮地楽器の試してみたシリーズ、久々の記事投稿になりますが、今回は「UVI/Toy Suite」です!
「Toy Suite」はUVIが世界中からかき集めた370以上のトイ楽器を丁寧にサンプリングしています。定番のトイインストゥルメント音源としてご存知の方も多いでしょう。70-80年代のゲームサウンドコレクション”8bit Synth”も加わり、同社の前製品「Complete Toy Museum」に比べて更にパワーアップしたこちらの商品をご紹介させて頂きます。
何と言ってもこの商品の魅力は「この雰囲気のサウンドが欲しければこれ以上膨大なコレクションの選択肢がない」という点が第一です。昨今、サブスクリプション式のサンプルコレクション提供サービスなどもありますが、UVI WorkStationエンジンを活かしたエディット性能の高さ、単なる効果音的な使用だけでなく、楽曲の中の1パートとしてサウンドを調整するための機能が1パッケージになっている点も大きな魅力です。
今回は使用法などの基礎的な解説は敢えてせず、そのあたりの魅力をデモ楽曲とともに解説していきたいと思います。
デモ楽曲と各収録楽器の特徴
まずは、こちらのデモ楽曲をお聞きください。
いかがでしょうか!
すべてToy Suiteの内蔵音源で制作したものですが、やはりこれ以外では制作できない童話的でかわいらしく、わくわくするサウンドが作れます。
今回はどんな音色があるかお伝えするために、敢えて大量のプリセットを使って制作していますが、Acoustic、Electric、8bit Synthの順に、実際に使用されたサウンドをピックアップしつつ解説していきます。
AcousticよりBaby Xylophone
名前の通り、子供用のシロフォンです。
前バージョン「Complete Toy Museum」の頃は、収録楽器本体が演奏できない音域というのはソフト内でも演奏不可でした。しかし「Toy Suite」でオーディオストレッチエンジンが強化、収録音より広い音域を自然な音色で演奏することができるようになりました。
単体楽器としてのこだわりも素晴らしく、たとえばこちらの音色はキースイッチで3種のマレット(C1:プラスチック/D1:ウッド/E1:IN THE AIR※)と、グリッサンド奏法(F1)を切り替えることができます。
※おそらく空中に吊るした状態。プラスチックマレットと同系統のサウンドに聞こえますがディケイが伸びています。
今回の楽曲では、柔らかい音色にするためにウッドマレットに設定しています。Acousticはこれ以外の音色も、たとえば小さなパーカッション一つとっても様々なアーティキュレーションを収録しており、飛び道具としてでなく、楽曲中の1パートとして使うためのこだわりが詰まっています。
ElectricよりDRP Two
Electricには、このようなサンプラーデバイスが数多く収録されており、3つのシリーズの中で最も「飛び道具的使い方ができる音色」が多いコレクションです。
これらのサウンドを効果音として楽曲に取り込む際、そのままではややうるさく、楽曲になじまないことがあります。こんなときは、FXパートの「IMPULESE RESPONSE」を活用するのがおススメです。電話やチープスピーカーなどを再現したスピーカーフォンエフェクトで、ほどよく帯域を削り、空気感を足してくれることで楽曲になじむようになります。
また、オルガンなどのリードとしても使えるような音色は、普通のシンセにはないチープで揺らぎのある音色が多数用意されており、このようなかわいい雰囲気の楽曲のリード音色として優れたものが多いです。
8bit Synth
8bit synth は他の2シリーズに比べシンセサイザーのように音作りする要素がありますが、シンセサイザーの基本的な知識があれば分かるシンプルな仕組みです。
左側にあるアーケードコントローラーのボタンを模したUIをクリックすることで各パラメータにアクセスできます。2つのチップチューン基礎波形をレイヤーし、エンベロープやアルペジエーターを個別に設定できることが特徴で、レイヤー1ではチップチューンではおなじみのSID音源から、レイヤー2ではGameBoy、Mode Machine、Commodore 64などのデバイス音源から波形を選択できます。
8bit synthにも様々なプリセットが収録されていますが、ここではSIDの基礎波形カテゴリ”Waveform”よりPulseを選択し、その他のエディットをあまり活用しない音作りをしています。いわゆるチップチューンというジャンルは、音色よりMIDIテクニックによって培われた部分が多いジャンルなので、今回はチップチューンサウンドを作る小ネタもいくつかご紹介します。
8bit synthを使ったチップチューンキックの作り方
8bit synthには波形サンプルとして数種のkickが用意されていますが、音程の落下スピードが一定であるため、より曲調やテンポに合わせたキックにするためには自作することも手です。
- SID 波形カテゴリWaveformの中からSquareを選びます。
- LFOのDEPTHをマイナスに振ります。(0~24)
※8bit synth単体でもこのようにキック、タムのような音色分けはできますが、今回デモ音源では前述のElectric DRP Twoのタムを使用しています。
LFOのスピードによって音程落下のスピードを、Depthで落下する音程の幅を調整すれば、同じ波形から様々な雰囲気に合わせたチップチューンキックを作ったり、またDepthをプラスにして音量エンベロープのアタックを少し遅らせれば、リバースキックの様な音色を作ることもできます。
手動アルペジエータ、MIDI delay
8bit synthにはアルペジエーター機能がありますが、自力でピアノロールに高速アルペジオを入力することで、より柔軟な表現ができます。
もともと同時発音数が少ない中でコードを表現するために生まれたテクニックですが、DAWにおいては発音数制限はないので、画像のように”高速アルペジオ”と、”同時弾き”を混ぜて使うのも面白い表現です。
また、同じフレーズをベロシティを下げながら繰り返すことによってディレイのように聞かせる”MIDIディレイ”というテクニックがあります。この楽曲でも活用していますが、ベロシティによっての音量変化設定が「on/off」のみで、程度を変更できません。8bit synthのベロシティ感度だと3回以上繰り返した場合、ディレイに聞かせることが難しいです。
8bit synthにおいて長めのMIDIディレイっぽさを出したい場合は、FXパートのディレイを活用し、あえてフィルターカットを行わないなどするのも手でしょう。
8bit synthに関しては、シンセサイザーとして1からチップチューンのみを作りたいという場合、操作性において他のチップチューンエミュレーションプラグインに軍配が上がるかもしれません。ただ、搭載されたプリセットは他のジャンルにおいていわゆる「チップチューン的ピコピコ」を手軽に取り入れたいという願望に応えるものが多く、これは他のエミュレーションプラグインには見られない8bit synthの特徴と言えると思います。
チップチューンを要素として楽曲に取り入れたい方には、こちらのプリセットを探索していただくのがおススメです。
終わりに
いかがでしたでしょうか。「Toy Suite」の魅力を、駆け足ですがかいつまんでお伝えしました。
冒頭でも申し上げた通り、ただ収録された音が魅力的であるというだけでなく、演奏を繊細にコントロールしたり、楽曲に組み込む際の音色エディットがソフト内で完結するための工夫が多数凝らされている点がこちらのコレクションの魅力です。
kawaiiは日本のポピュラーミュージックの大きな特徴の一つ、それを楽曲に組み込む強力なこの音源コレクションを、あなたの制作に取り入れてはいかがでしょうか!