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機材四方山話 by ToneFlake ~シリーズ1:機材目利き列伝 Vol.1~
「レコーディング機材って新品と中古どっちが良いんだろう?」
初めて大きな金額の機材を購入する時、皆さん迷いませんでしたか?
機械なんだから新品が良いに決まってる!そう思う方も多いと思います。
同じ予算なら、中古の方が安い分上位機種が買える!そういう考え方もありますね。
機材の種類によっては、常に新しいものを買わないと意味のない物もあるので、今回は分かり易い例としてマイクプリアンプを挙げてみましょう。
マイクプリアンプはその名の通り、マイクを繋いで音を増幅し、レコーディング機材やミキサーやDAWのI/Oなどに送る機械です。最近の一般的な物は、コンデンサーマイク用のファンタム電源を装備し、簡単なイコライザーや機材によってはコンプレッサー/リミッターを搭載している機種もありますね。
今回は定番機材である「AVALON DESIGN/VT737SP」を例にとってみたいと思います。
AVALON DESIGN/VT737SPの場合
VT737SPは真空管を4本使用したマイクプリ/イコライザー/コンプレッサーで、いわゆるチャンネルストリップとも呼ばれている機材です。高性能な機材で、価格も決して安くはありません。市場には中古も多く出回ってます。
中古の値段は、新品の半額から70%程度と開きがありますが、だいたい新品の65%位の値段であれば、そこそこ安心して使えるものが買えると思います。
さて、ここでVT737SPの新品の特徴を挙げてみましょう。
新品のVT737SPは音がキラっとしていて端正で高域も良く伸び、またボリューム類にはガリなどはありません。
ただ、少々音が硬い傾向があり好みの別れる所でもあります。
対して、中古のVT737SPはどうでしょうか??
あまり古いものはいろんな問題があるので、今回は5年落ち程度の物を例に挙げたいと思います。まず、営業スタジオなどの常設機材でない限りは5年程度ではさして悪くなる様な部品は使われていません。
唯一の例外は真空管で、これは製造元メーカーでも販売後90日の保証しか付けていません。この事からも、真空管は消耗部品である事が理解できます。
そうなると、中古のVT737SPは真空管の状態が価格やその後の使い勝手に影響してきますが、一式交換してしまうという方法もあるので、予算のある人は交換すると良いと思います。
中古機材の良さとは?
AVALON社の機材は高電圧供給型のトランジスタフルディスクリート構成で、言ってみればレースに出る様な車の高性能チューニングエンジンのような物です。そういった機材は常に高い性能を誇りますが、消耗部品も多く中古品だと色々と気をつけないといけません。
しかし、中古には中古の良さがあります。
まず、中古はそれまで問題なく動いていた優良動作機材であるという事。
まるっきりの新品は使い始めてから間もなく小さな故障やトラブルを起こすものも少なくありません。
中古はそういった問題を乗り越えてますから使い始めてから同じような問題に遭遇する可能性は低いと言えます。
また、音響機材の多くはエージングといって動作を或る程度行った機材の方が音もこなれて使い易い状態になっています。
車も新車は馴らし運転をするでしょう。
多くの部品がまだ『アタリ』が出ていないのでそれをゆっくりと時間をかけて慣らしていくのです。音響機材も全く同じです。
中古はすでに慣らし運転が終わっていますからすぐに『いい感じ』で使い始める事が出来ます。その反面、前オーナーの使い方のクセが付いている場合もあります。上手に慣らし運転の終わった中古機材はとても使い易く、音もこなれていて価格も安いというメリットがあります。
それではここで、簡単に項目別に新品/中古のそれぞれのメリット/デメリットを挙げてみたいと思います。
新品機材
★メリット
- 新しい
- メーカー保証が付いている
- 他人の手によって使用されていない
- 消耗品が全て新品である
★デメリット
- エージングが済んでいないので音がこなれていない
- 初期不良などの問題が起こるリスクがある
- 細かな設定などすべて自分で行わなければならない
- 価格が高い、定価かそれに準ずる場合がほとんど
中古機材
★メリット
- エージングが済んでおり、すぐにこなれたサウンドで使う事が出来る
- 初期不良を乗り越えているのでその点に於いては安心できる
- 価格が新品に比べ安い
★デメリット
- メーカー保証がない
- 外見が汚れていたり、使用感のある場合がある
- 消耗部品が要交換の場合がある
- 新品特有のキラキラ感が無い事がある
・・・ 簡単に言えば、中古機材は(数年落ちであれば)良く観察して、前オーナーが丁寧に使っていれば得をする事が多いと言えます。VT737SPの場合であれば もし音を聴いて少し気になるなと思う場合は代理店にて真空管交換を行えば、しばらくは安心して使う事が出来ます。価格も安いので初めて、ハイエンド機材を買う 人にとっては魅力的な選択肢でしょう。
ただ、その際にはその実機を良く見極めなければなりませんので、安心できる楽器店舗や実機を実際に使って試せるようなケースで判断するのが良いと思います。
実際に見られない、触れないなどの場合は、余程いい条件でない限りはあまり手を出さない方が懸命です。故障が発覚し、送り返したり戻したりなどの手間やメンテナンス代など余計なお金がかかりますから、結局新品を買った方が良かった!という事も少なくありません。
~近日公開予定のVol.2に続く~
著者紹介
佐藤俊雄(さとう としお)
1991年TONEFLAKE 設立。
真空管機材をメインにビンテージ機材のメンテ、改造、リボンマイクの修理などをはじめる一方、独自のブランドの機材も製作する。ヨーロッパ在住の経歴を生かし米国以外のメーカーとも連携を深める。
現在宮地楽器MID所属の傍ら、独自の研究と商品開発も続ける異色の存在。
1920年代からの録音機材の収集や1950~60年代のアナログレコーディング技術に詳しい。
メジャーレコード会社にての作家(アーティスト)およびエンジニアの活動経験もある。