「ヘッドホンの音をもっとクリアに、もっと自然にしたい」――そんな思いから生まれたのが、イヤーパッド内部に入れるだけで、ヘッドホンの音の定位をスピーカー再生の前面定位へと変化させるアクセサリー「earfocus」。今回は、その開発者である堀江さん(以下、H)さんに誕生の背景や技術的なこだわりを伺いました。

 

開発のきっかけ

RPM: この製品を開発しようと思ったきっかけは何ですか?

H: 実は最初のきっかけは、ただの“コピー作業の違和感”だったんです。Steely Dan の「Peg」をヘッドホンでコピーしていたとき、一番左で鳴る単音フレーズがどうしても取れない。右側のシンセのコードも曖昧。ヘッドホンなのに、なぜここまで左右が聴き取りにくいのか…と。

スピーカーなら定位はしっかりしているけれど、部屋のノイズや距離の問題がある。だから多くの人と同じように、私も“コピーはヘッドホン派”。でも、そのヘッドホンで“最左右の音が聴こえにくい”という現象に強い疑問を持ちました。

そこで、原因を考え始めたんです。「スピーカーとヘッドホンでは、そもそも音が届く角度が違うのでは?」と。スピーカーは正面左右60度に配置するのが理想と言われていますが、ヘッドホンは耳のほぼ真横=180度。この“配置の違い”が、聴感の違いや定位の曖昧さを生んでいるのでは、と気づきました。

RPM: そこから、どのようにして“イヤーパッド内部に入れる”という発想につながったのですか?

H: 最初は、とにかく“音を理想の60度方向から耳に届けるにはどうしたらいいか”を考え、厚紙やヨーグルトの蓋など、手元にあるもので試作を続けました。ダイヤフラムの前後から出る音をコントロールするため、後方には遮蔽物、前方には反射板を設けてみる…といった試行錯誤を何度も繰り返しました。

その過程で、中央部に開口を残しつつ、前方の反射板を適切に角度づけすれば、“前方60度からの音”に近づけられるのでは?という形が見えてきたのです。そして完成したのが、自然とリング状になり、イヤーパッドの中にぴったり収まる現在のデザインでした。

▼試作モデルのイメージ図、および試作機をMDR-CD900STに装着した図
earfocus 初期スケッチと試作モデル

 


コンセプトと体験

RPM: earfocusで目指した体験とは?

H: 「音が変わる」という確かな体験です。
もちろん、音が良くなるとか、解像度が上がるという表現もできるのですが、私たちが大切にしたのは “変化を実感できること” なんです。
音像がクリアになり、広がりや自然な聴感が得られる。もしその変化を好きになってもらえたなら、それは開発者として本当に 無上の喜び です。

RPM: 他の音質調整方法と比べた強みは?

H: 一般的に音質を変えようとすると、ケーブルを交換したり、イヤーパッドを変えたりと、どうしても“知識と手間”が必要になりますよね。でも ear focus は、リケーブルも不要で、イヤーパッド交換よりも簡単に着脱できるところが良いところと思っております。

▼ear focusを実際にMDR-CD900STに装着した様子
earfocus を装着したヘッドホンのクローズアップ

 


技術的なこだわり

RPM: 素材選びで重視したポイントは?

H: 試作では細い部分が割れやすく、最終的に採用したのが ポリカーボネイトという素材です。
この素材はカーポートの屋根や防弾ガラスにも使われるほど 非常に高い耐久性・靭性 を持っています。
見た目以上に、裏では素材の選定だけで何度も試作を重ねているんです。

RPM: 厚みや形状の設計で苦労した点は?

H: SONY MDR-CD900STのイヤーパッド内に収まり、耳に当たらないサイズで反射面積を確保するのが難しかったですね。
音響業界では“基準機”として多くの現場が使っているヘッドホンなので、ここに取り付けられないといけないという一方で、反射面積をしっかり確保しないと ear Focus 本来の効果が出ない。でも、少しでも大きくすると耳に当たってしまう。“この数ミリの世界をどう両立させるか?” ここに本当に苦労しました。

RPM: 音質変化のメカニズムは?

H: これは “聴覚の仕組み” と密接に関係しています。
実は人間の耳って、真横からの音の加算がとても苦手なんです。左右から来る情報を脳がうまく処理できず、結果として音像が曖昧になったり、輪郭がにじんでしまうことが多いんですね。
そこで ear focus が何をしているかというと、この“苦手な方向から入ってしまう音”を少しだけ整えて、脳が処理しやすい状態に近づけるということなんです。
ear focusは、理想的なスピーカー配置で音を聴いている状態に近づけるアタッチメントです。

▼ear focusのイメージ図
earfocusのイメージ図

 


開発ヒストリー:試行錯誤から特許、そして発表へ

RPM: 開発はどれくらいの期間を要したのでしょうか?

H: 2018年に試作を始め、2019年に特許取得。商品化は2024年、販売開始は2025年8月。7年かかりましたが、手作りからここまで進化できたのは驚きです。

▼ear focusの前身モデル「RearL」として、ヘッドフォン祭に出展時の動画紹介

 

RPM: 当初の「RearL(リアル)」というブランド名から、なぜ「ear focus」に変更したのでしょうか?

H: 直接のきっかけは 商標の問題でした。
当初は “RearL(リアル)” という名前でブランドを立ち上げる計画でした。「Real=本物」という意味に近く、ブランドとしての世界観も作りやすかったのですが、たとえ英文のつづりが異なっていても、読み方が同じ場合は“同一または類似”と判断される可能性が高い、というのが弁理士の見解でした。
つまり「RearL(リアル)」は、既に存在する “リアル” と同じ読みで、なおかつ既存商標とジャンルも同じため、

「申請しても拒絶される可能性が非常に高い」
「有効な反論も難しい」

と示唆されたんです。
ブランドのコンセプトを保ちながら、なおかつ商標として“勝てる名前”を模索した結果、「ear focus」という候補にたどり着きました。
実は “音響/電気製品のカテゴリで『ear focus』という名称は存在しない” というのが大きなポイントでした。
ありそうで、実は誰も使っていなかった。その“空白地帯”を見つけられたのは幸運でしたね。

RPM: 試作の段階での印象的なエピソードは?

H: 初期は紙で試作しましたが、吸音してしまい全く効果がなく、素材選びの重要性を痛感しましたね。

RPM: 試作の後半では、どんなブレイクスルーがあったのでしょう?

H: 厚紙では吸音してしまい効果が出ず、反射に向いた素材を探しました。そこで身近なヨーグルトの蓋PET樹脂で形状検証を重ね、中央の開口を保ちつつ前方反射板を角度付けする現在の基本形に収斂していきました。点定位に近づくことで、楽器個音の周波数特性が一点にまとまり、残響がクリアに分離するという聴感上の成果を確認できたのが大きかったですね。

RPM: 特許まではどのように進めましたか?

H: 先行特許の構造を実際に再現して聴感比較を行い、当技術の優位性をデータで確認しました。専門家の助言も得て、日本(第6506464号・第6967547号)、中国(ZL 2019 8 0069696.4)、米国(US 11937045)などで権利化しています。さらに、方向認識は正面左右60度が正確という医学文献も参照し、理論面の裏付けを行いました。

RPM: ユーザーと出会った場は?

H: 2020年春以降、フジヤエービックヘッドフォン祭で継続的に試聴展示し、3Dプリンター技術者との出会いが製品進化の転機になりました。SONY MDR‑CD900STでの比較試聴や、YouTubeライブでの反応など、外部の声が設計改善を強く後押ししました。2025年春には商品サンプルの初披露・販売にこぎ着けています。2025年11月にはInter Beeにも出展いたしました。


サウンド哲学

RPM: 理想とする「良い音」とは?

H: 私が思う「良い音」は、一言で表すなら “点で定位する音” なんです。
たとえば、生演奏を聴きに行くと、
“あ、このバイオリンは右前のここから鳴っている”
“ピアノの低音は左奥の方で響いている”
というように、楽器や声が“点として”空間に存在している感覚がありますよね。
ear Focus で目指しているのは、まさに スタジオやホールの空気そのものが、ヘッドホンの中に現れる状態 です。

RPM: どんなジャンルで効果的?

H: ジャンルによって “出方” は違いますが、効果の軸は共通しています。
たとえば クラシックであれば、オーケストラの各楽器群がより鮮明になる、バンドサウンドならリズム隊の切れ味やライブ感。
どちらの場合でも共通しているのは、“演奏者の個性がよりストレートに感じられる” という点です。
たとえば、同じフレーズでもドラマーによってアタックが違う、同じ曲でもホールの響きで印象が変わる、そういう“音楽の面白さ”がより際立つようになります。
結局のところ、ジャンルに関わらず“音楽そのものの表情”をより繊細に味わえるのが ear Focus の魅力でしょうか。


ユーザーへのメッセージ

RPM: どんな人に使ってほしいでしょうか?

H: 基本的には 音楽が好きなリスナーなら誰でもです。
自然な定位感が整うことで、演奏者の個性や“込められた想い”がより伝わるようになります。
また、楽器演奏者や制作者の方には、音の判断がしやすくなるというメリットもあります。

RPM: ear focusにおすすめのヘッドホンは?

H: 基準にしたのは SONY MDR-CD900ST です。ただ、一般的なオーバーイヤー型ヘッドホンなら多くが挿入可能なので、幅広いモデルで試してもらえると思います。

RPM: 今後の展望をお聞かせください。

H: まずは、ユーザーの声をしっかり取り入れて改良していきたいです。実際の使用感から得られる意見が、次の進化のヒントになります。より自然で心地よい音を目指して、今後もアップデートしていきます。


「音をもっと自然に、もっとクリアに」――その思いが詰まったearfocus。あなたのヘッドホン体験を変える小さなアクセサリー、ぜひ試してみてください。

製品・販売価格一覧
ear focus/EF-100

 

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