Review
【WTG】見えない振動を作品にする – LeafAudio Contact Microphone & Geophone アーティストレビュー by 岩澤秀樹

人が通常は知覚しにくい現象を、現実空間で経験可能な音や映像などに変換する「知覚空間拡張」。
コンピューターサイエンスやサウンドデザインを駆使したアート作品を通して「知覚空間拡張」を実践している岩澤秀樹さんに LeafAudio のマイクを使用いただき、作品内での使用方法の解説と製品レビューをしていただきました。
LeafAudioは、対象物固有の振動を音として拾う新たな視点のフィールドレコーディング「ボディーサウンド・レコーディング」を提唱し、それに適したマイクやインストゥルメントを開発するドイツ、ライプツィヒの音響メーカーです。LeafAudioの詳細については、以下の記事をご参照ください。
記事:素材の音を聴くセンサー型マイク – LeafAudio 取り扱い開始!
岩澤秀樹
香川県出身、東京在住。
身体、場所、環境のなかに生じる、通常は知覚しにくい変化や関係を捉え、音、映像、触覚、物質の動きなどを通じて、現実空間で経験できる現象へと変換する「知覚空間拡張」を実践するアーティスト/研究者。
ニューラルネットワークによる音楽生成と、音楽におけるゆらぎの解析を起点に、3Dコンピュータビジョン(コンピュータが身体や空間を立体的に捉える技術)へと研究領域を広げ、身体・空間認識の実装に取り組んできた。
作品制作から企業・研究機関との共同制作、共同研究まで、センシングとコンピュータサイエンスを、身体や場所の状態を読み取り、音、映像、触覚、物質や機構の動きへ翻訳する方法として用いている。
Instagram:https://www.instagram.com/hidekiiwasawa0715/
環境を投影し続ける作品《Sphere-T03: Modal Resonance》
《Sphere》シリーズは、直径約2mの和紙の球体を中心に、身体、土地の音や記憶、遠隔地を結び直す空間を構成する作品のシリーズです。
組み込まれたセンサーとアルゴリズムが周囲の環境の要素を音や映像に反映し続けることで、作品の表情が変わり続ける仕組みになっています。
2026年7月25日に静岡・ARTIEで開催されたTECH BEAT Shizuokaの連動企画「Craft & Play supported by TECH BEAT Shi zuoka」では、岩澤さんの最新作《Sphere-T03: ModalResonance》が展示されました。
岩澤さん:
《Sphere-T03》で扱われる時間は、大きく「過去」「現在」「未来」に分かれています。
会場外や土地であらかじめ収録された音は、その場所に残された「土地の記憶」として作品へ持ち込まれます。
そこへ、会場にいる参加者の心拍に伴う身体振動、植物や周囲の環境音、3Dセンサーで捉えた身体の動きが「現在」の入力として重なります。
さらに、会場内の離れた空間をリアルタイムにつなぐことで、異なる場所の出来事が同じ作品を変化させる「未来」の関係がつくられます。

3D センサーが捉えた参加者の動きが、粒子映像と音響へ反映される。
岩澤さん:
3Dセンサーから得られた身体情報は、球体へ投影される粒子映像と音の双方へ作用し、身体の動きに応じて粒子の状態が変化します。
変化した音と映像は参加者の知覚へ返り、その反応によって人の動きが変わり、再び作品へ入力されます。
作品はあらかじめ決められた映像や楽曲を再生するのではなく、人の身体、土地の記憶、環境から得た情報が音と映像を変化させ、その出力が再び参加者の知覚と動きへ返る循環によって、その都度異なる状態を生成します。

土地の音と参加者の身体情報を受けながら、音と粒子映像が変化する。
展示の全体像は、「《Sphere-T03》ライブ展示映像」で確認できます。
また、展示中に生成されたリアルタイム音響の一部は《Sphere-T03 : Modal Resonance – Live Audio Documentation(Shizuoka, 2026)》として SoundCloud 及び bandcamp でリリースされています。
Leaf Audio Geophone L と Contact Microphone の作品内での使用例
心拍と水滴をLeaf Audioで収音。
《Sphere-T03》では LeafAudio の Geophone L と Contact Microphone を使って、鑑賞者の身体や展示物の振動を音声信号として拾っています。
岩澤さんに、作品で LeafAudio のマイクをどのように使用したかお聞きしました。
岩澤さん:
《Sphere-T03》の音響設計で入力として扱っているのは、会場の空気を伝わる音ではありません。
参加者の身体内部で繰り返される心拍の振動と、植物から落ちた水滴が容器や素材へ伝える衝撃です。いずれも周囲の話し声や会場音に埋もれやすく、通常のマイクを離して置くだけでは捉えにくい振動です。そこで、Leaf Audio Geophone LとContact Microphoneの2機種を使用しました。
マイクはここで、完成した音を忠実に記録するためだけの装置ではありません。身体や物質の状態を作品へ受け渡し、音と粒子映像の変化を生む入力装置です。つまり、鑑賞者、植物、会場と作品の境界をつなぐ「感覚器」として位置づけられました。
作品では、マイクから取り込まれた振動に対して、参加者の動きをパラメータとして、リアルタイムにサンプリング、スペクトル処理、空間処理などを行いました。
使用機材1:Contact Microphone

Leaf Audio/Contact Micは、素材に取り付けることでその振動を直接収音するコンタクトマイクロフォンです。
対象そのものの振動「Body Sound」を直接収音することを可能にし、打楽器、金属、木材、ガラス、日用品など、さまざまな物体に取り付けて独特のサウンドを得ることが可能です。
岩澤さん:
《Sphere-T03》では、植物から落ちた水滴が水面、容器、支持部などへ触れたときの振動を捉えるため、Contact Microphone の取り付け位置を変えながら試しました。聞こえてくるのは水滴の空気音ではなく、衝撃を受けた素材が震え、余韻をつくる音です。対象物と取り付け方によって音色が大きく変わるため、録音対象とマイクを調整する必要がありました。

植物から滴る水が素材へ伝える振動をContact Microphoneで収音する実験。
使用機材2:Geophone L

Geophone は低周波の響きを捉えるために設計された、フィールドレコーディング対応の特殊マイクです。
従来のマイクでは見過ごされていた超低周波も感知でき、空気の振動を録音する通常のマイクとは違い、Geophone は対象のボディサウンドに反応して内部の音を収音するため、今までと全く異なる音の側面を見せてくれます。
岩澤さん:
《Sphere-T03》では、参加者の身体へ Geophone L を当て、心拍に伴う周期的な振動をリアルタイムに取得しました。その信号は医療的な心拍数として表示するのではなく、作品の音響をリアルタイムに変化させる信号入力として扱われます。自分の身体内部のリズムが作品の音を変え、その音を聴いた参加者の動きが再び作品へ戻ります。Geophone L は、この循環の入力装置の要素となりました。

Geophone L で参加者の心拍に伴う身体振動を取得し、作品のリアルタイム入力として使用。
展示に向けた実験
作品に LeafAudio のマイクを組み込むにあたって、様々な実験を重ねたという岩澤さん。
その内のいくつかをご紹介いただきました。
岩澤さん:
Geophone L と Contact Microphone は、同じ対象へ取り付けた場合でも、それぞれ異なる振動を捉えます。
2機種を併用することで、対象や取り付け位置による音の違いを確認しやすくなります。今回の展示では心拍に伴う身体振動と植物から滴る水に使用しましたが、別途、排水管と空調ダクトでの収音、およびライブ演奏で使用方法を試しました。
Geophone L と Contact Microphone でどのような振動を収音できるかを確かめるため、シンク下の排水管と空調ダクトに2機種を取り付けました。ここでは、取り付ける対象や位置によって得られる音がどのように変わるかを確認しました。また、2機種を入力として用いたライブ演奏も行いました。
実験1:シンク下の排水管
キッチンのシンクに水を流し、シンク下の排水管に Geophone L と Contact Microphone を取り付けて、管に伝わる振動を収音。
2機種を同時に使用し、同じ排水管でもそれぞれが捉える振動の違いを確認。

実験2:空調ダクト
空調ダクトに Geophone L と Contact Microphone を取り付け、運転中にダクトへ伝わる振動を収音。
取り付け位置を変え、場所によって得られる振動がどのように変わるかを確認。

実験3:ライブ演奏
2機種から得られる振動をリアルタイムに選択・変形し、ライブ演奏。
Geophone L と Contact Microphone を同時に用いることで、異なる振動を演奏の入力として扱う方法を実践。

作品での使用を通して感じた LeafAudio の魅力
最後に、作品での使用や実験を通して感じた LeafAudio のマイクの魅力について、岩澤さんに語っていただきました。
狙った音にフォーカスできる、ライブ環境に適した収音方法
岩澤さん:
私の作品は展示環境そのものを作品化するインスタレーション形式を取るものが多いのですが、そういった場面では環境音や鑑賞者の音など、常に様々な音が鳴っています。
こういった環境で水滴の音などの小さな音を収音するのはなかなか難しいのですが、対象物そのものの振動音だけを収音できる LeafAudio は、通常のマイクでは拾ってしまうような周辺の音が入りにくく、収音にとても適していました。
上記のようなインスタレーション環境での使用や、フィールドレコーディングでピンポイントに対象の音を収音をしたい場合に適している印象です。
新たな音に出会える、低音特化マイク
岩澤さん:
Geophone で録れる音が通常のマイクやコンタクトマイクとは全く違っていて、非常に新鮮でした。「実験2:空調ダクト」でエアコンの起動音が地鳴りのような迫力ある重低音になったように、普段何気なく聞き流している環境音も Geophone によって捉え直すと新しい発見があるかもしれません。
また、《Sphere-T03》では Geophone を人の心音の収音に使用しましたが、低音特化の性質がうまく噛み合い、衣擦れやタッチノイズなどの高音ノイズが少なく、適度なゲイン量も相まって理想的な音を録ることが出来ました。「人の身体はこんなに低音が鳴っているのか」と驚かされました。
通常のマイクやコンタクトマイクでは周囲のノイズが問題になってしまう環境での解決策としても、様々な場面で活用できると思います。
様々な収音方法を試すことができる、高い拡張性
岩澤さん:
空気を伝わる音ではなく対象物そのものの振動音だけを収音できるという点は、他の一般的なコンタクトマイクにも言えることかと思いますが、
Contact Microphone の特筆すべき点は、多様なアタッチメントによって通常のコンタクトマイクではできない収音方法も実践できる点です。
《Sphere-T03》で植物の葉から垂れる水滴を効果的に収音するために様々な方法を試しましたが、最終的に行き着いたのは「Contact Microphone に針状のアタッチメントをとりつけ、水滴が落下する砂利の地点に刺す」といった方法でした。
水槽の壁など、周りに貼り付けるだけでは十分な音量が得られなかったのですが、水滴がぶつかる部分に針のアタッチメントを指すことで非常にピンポイントな収音をすることが出来ました。
Contact Microphone には針状のアタッチメントの他にはマグネット、専用の粘着パテ(別売り)などが用意されていて、Geophone には吸盤とマグネット、取り付け角度を微調整できるアドオン(別売り)が用意されています。状況に合わせて様々な方法を試すことが出来ますね。

LeafAudio製品から得られる新たな視点
岩澤さん:
LeafAudio のマイクは「特殊な音を録音するためのマイク」として便利なだけではなく、その高い拡張性によって「取り付ける素材を含めて一つの収音システムとして考えられる」という新たな視点を与えてくれました。
マイクを取り付ける素材や構造によって音の伝わり方そのものが大きく変わる点は、「対象が周囲の音をどのように捉えているのか」さらには「どのように環境と関わっているのか」という観点から音を捉えることが出来るとも言えます。
また、LeafAudio のマイクの小さい振動でもピンポイントに収音できる特性はマイクとしてだけでなく、ある種のセンサーとして機能させることもできます。
対象の動きに合わせてモジュラーシンセの音をトリガーしたり、映像を変化させたりといった仕組みを作りやすく、対象の音(振動)を他の表現媒体に置き換える際の橋渡しになってくれます。
これは、人が通常は知覚しにくい現象を現実空間で経験可能な音や映像などに変換する「知覚空間拡張」を実践する私にとって、非常にありがたい部分です。
既に色々なアイディアが湧いてきているので、今後もLeafAudio のマイクをつかった色々な実験をしていきたいです。
岩澤秀樹 Biography
2026 Sphere-T03: Modal Resonance / Craft & Play supported by TECH BEAT Shizuoka
2025 未来の扉/EXPO2025大阪・関西万博
2024– tariki lab / 他力 研究所
2024 無目的室「Morph inn」
2023 Sphere-T01 / 白山サトヤマカイギ奉納祭内「白峰芸術祭」
2022 SPHERE-T01 / Water Commune city(ANTICAL 高松)ヤマウミ
2021 Sphere-T01 / 白峰ボーディングスクール ART & SCIENCE
クレジット
アーティスト/作品・音響・システム設計:岩澤秀樹
技術開発・制作:株式会社Tengun-label
資料・写真・映像・音源提供:岩澤秀樹/株式会社Tengun-label
機材協力:宮地楽器RPM
取材・編集:宮地楽器RPM スタッフON
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